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本町ビルディングプロジェクト 〜昭和42年竣工の倉庫ビルをコンバージョン〜

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■ 価値を転換し再び命を与える           

 

建築物に求められる役割は、時代と共に変化していきます。

繊維会社の倉庫兼事務所として建設されたこのビルの周辺環境も、竣工当時から

比べると、大きく様変わりしたと言えるでしょう。

計画地周辺は現在、高級ホテルや大手企業のオフィスが建ち並ぶ大阪でも有数の

オフィス街となっています。

そのような地域では現在、倉庫の需要は殆どなく、またあったとしても採算性が

合わず事業としては成り立たないため、大幅な用途転換を求められていました。

既存の利用方法の延長では、劇的なバリューアップを図ることは出来ません。

建築物に再び命を吹き込む作業には、改修や増強といった「対症療法」ではなく、

既成概念を覆し、評価を一変させるほどの「価値の転換」が必要とされるのです。

 


本町ビル施工前.jpg

 

                                                              

■ 誰もが訪れたくなるビルへの再生

 

再生を行う際に、具体的な競合相手となるのは同年代に竣工した建築物ではなく、

むしろ最新のインテリジェントビルだといえるでしょう。

設備性能など機能面については、当然ながら新築と同等の水準が要求されます。

それに加え、新しい建築物に負けない高いデザイン性や利用方法などソフト面も

重要な要素となってきます。

竣工から数十年経った建築物が新築のビルと戦うためには、人々が想像する以上

のバリューアップが必要とされるのです。

 

今回の計画のテーマは「誰もが訪れたくなるオフィスビル」への再生でした。

1階には海外の映画に出てくるような、高い質感のバーやサロンを誘致。

オフィスフロアの入居者が、ミーティングやパーティーを行う空間として利用を

出来るほか、ドリンクやケータリングのオーダーを行うなど、共用施設としての

機能も果たすと共に、周辺のビジネスマンなど様々な分野の人々が交流する空間

としても利用されるなど、ビル全体に付加価値を与えることに成功しました。

 

また、2階から5階のフロアは、スモールオフィスにコンバージョン。

コンセプトは「誰もが訪れたくなるオフィス」でした。

一般的に、SOHOの入居者は少人数で活動をしている企業が多く、移動時間や

外出時間を極力減らさなければならない小規模事業者がその大半です。

しかし、実際には取引先との関係上、自分から先方に出向いて行かなければなら

ないケースが多く、非常に生産性が悪いと言わざるとえません。

さらに、従来のSOHOはアクセスの悪い立地に開設されていることが多かった

ため、余計に取引先の足が遠くという悪循環に陥ってました。

つまり、このコンセプトを実現するためには、来訪した人々が目を見張るような

高い質感を持ち、アクセスの良い立地にオフィスを作る必要があったのです。

 

本町ビル施工後.jpg

 

 

■ デメリットを活かしたコンバージョン

 

また、計画建物は間口が狭く奥行きが長い、いわゆる鰻の寝床と言われる敷地の

上に建設されていました。

テナント誘致を考えた場合、この形状は決して良い条件とは言えません。

それは、奥行きがあり実際には十分な店舗面積が確保できていても、間口の狭さ

は顧客に対して、「小さい店=客席数が少ない=満席なら他店へ」というマイナス

の印象を与えてしまうからです。

 

だからと言って、建物の間口を広げることは不可能です。

そこで発想を変え、狭小間口が魅力になるアプローチを考えることにしました。

エントランスを入って直ぐの空間を、スタンディングで飲むバールスタイルにし、

客席そのものを無くしてしまうことにしたのです。

アメリカの社会心理学者ソロモン・アッシュによると、人間には多くの人が集ま

る光景や、人々が行列をなす姿を見ると自分もそこに参加したくなる「同調行動」

という心理がはたらくそうです。

このスタイルの場合、前述した客席を設けている店舗と違い仮に多くの客がいた

としても、どこかに自分の空間を確保することが出来るだろうと予想できます。

つまり、スタンディングスタイルにすることによって、多くの客がひしめき合う

光景を、自分もそこに入りたいというプラスの印象に変えることが出来るのです。

また、このアイデアにより狭小間口を店内の密集感や活気ある雰囲気を一層強調

させるという効果や、座席を無くすことで収容できる客数が増加し収益性が向上

するという副産物を生みだす要素に転化させることに成功したのです。

 

また、奥へ行くほど高級感とサービス内容が増してゆく2つの異なる空間を作る

ことでゲストの期待感を演出し、奥行きが長いという配置上のデメリットについ

ても、メリットに変えることに成功しました。

 



本町ビル内部施工後.jpg

 

 

■ 逆転の発想で高収益を確保

 

通常、テナントビルの企画をする場合、収益性の高い一階部分の条件を優先する

ケースがほとんどです。

今回の計画も同様で、一階店舗の運営者からはオフィスのエントランスの間口を

削り、店舗部分の間口を広くして欲しいとの要望が強く寄せられていました。

しかし、最終的に私が下した結論は寄せられた要望とは反対に、

 

「一階テナント部分の間口を削り、オフィスのエントランスを拡げる」

 

というものでした。

 

面積あたりの収益が最も高く取れる一階部分の店舗面積を少しでも確保すること

は、商業ビルの企画としては王道かもしれません。

しかし、今回の再生計画では上層階のオフィスフロアについても店舗並の収益性

を確保できると確信していました。

一階の僅かな店舗スペースを増やすために、オフィス部分のエントランスが貧弱

になってしまったら、幾ら室内や共用部を魅力的にしたところでその効果は半減

してしまいます。

たしかに、面積単位での収益性だけを見れば一階部分が他のフロアに勝ります。

しかし、不動産の事業収益は建物全体の収益性を見なければなりません。

人に感動を与えることができる空間は、一部の専用部分を魅力的にするだけでは

作り上げることはできません。

共用廊下やエレベーター、エントランスホール、ファサードなど、建物内部だけ

ではなく、建物に入る前から続く一連の空間を全て演出してこそなし得る技だと

言えるではないのでしょうか。

 

一見無駄に見える空間がオフィスフロアの価値を向上させ、周辺の新しい建物と

比較して1.3〜1.5倍、同年代の物件と比較し2.2〜2.5倍もの収益性

のアップを実現することができたのです。