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阪神西宮駅前プロジェクト〜「これから」を考えるプランニング〜

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■ ヒット商品が落ち入る隘路

 

先日、絶版となった本を探すべく某店舗に入ると、かつて若者なら誰もが

持っていたアイドルのアルバムが何十枚と積み上げられていました。

しかも全て同じタイトル。

 

あのヒット作がいまや105円でも引き取り手がいないとは。

時の流れとは残酷なものです。

 

話しは変わって自分自身が住まいを探すようになって感じるのは、

 

「どうして巷には同じような物件がこんなに溢れかえっているんだろう」

 

ということ。

仕事柄、不動産関係の人と話しをする機会が沢山あります。

この疑問をぶつけると、必ず返ってくるのが、

 

「そういうものが一番支持されるからいいんですよ・・・」

 

という答え。

なるほど・・・

たしかにビジネスを考えた時、確実に売れるものを作っていくことは重要

な要素なのでしょう。

そのためにはボリュームゾーンにターゲットを絞るというのも、ある意味

正解かもしれません。

しかし、長いタームで考えた場合には話しが少し変わってきます。

売りやすかったものは、いずれ売りにくくなってしまうのです。

積み上げられていた、あのCDのように。


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■ 過去、現在、そして未来

 

不動産プロデュースをする時に必ず考えること。

それは、過去と現在と未来。

 

「これまではどうだったのか?」

「今はどうなのか?」

「これからはどうなるのか?」

 

当たり前のことですが、意外と最後の「これから」の部分を考えない人が

多いように感じます。

人情としては、先が読めないことはしたくない。

だから見なかったことにする。

そして無難なものを作り続けていく。

なんという悪循環・・・

言葉もありません。

 

どんなヒット商品もいずれは陳腐化します。

音楽などのソフトと違って建築は投下資本も大きいため、回収にも時間が

かかります。

だからこそ、短期間で商品価値を減衰させるわけにはいけないのです。

確かに、いま何が求められているかを追求することは大事でしょう。

しかし、「これから」を考えた上でプランニングをすることは、それ以上

に重要なことなのではないでしょうか。

 

同じようなものが溢れている市場の中で、一歩先を行くこと。

それが出来れば、陳腐化の波に飲まれてしまうことはありません。

奇抜な物を作ればそれでいいと考えて、実際にそのような物を作っている

企業もあります。

しかし、そのようなアプローチでは何の解決にもなりません。

きちんとした根拠をもって物を作りあげていく。

それこそが大事なことなのだと思います。

 

 

■ 空間を活かす想像力

 

では、住環境における「これから」とは何なのでしょうか?

住環境とビジネス環境のボーダレス化はその一つだと言えます。

インターネットやスマートフォンなどの情報インフラの発達は、ライフス

タイルを大きく変えました。

同時にビジネス環境も大きく変わったと言えるでしょう

零細企業のカテゴリーにも入らないフリーランスの事業者が、有名企業と

直接取引をするケースも夢ではなくなってきました。

それらの中には、従来のようなオフィスを持たなくても仕事ができる人も

少なくないそうです。

自分の住環境をそのままオフィスにする方が、効率が良いのは当然です。

大手企業の中にも在宅勤務を認める動きが始まっています。

この流れを見ると、これまであったSOHOという考え方以上に、職住の

境界がなくなっていくことは必然なのではないでしょうか。

 



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しかしそこで問題となるのが、物件の供給です。

残念ながら、供給がその流れに追いついていないのが現状です。

需要があっても、それに見合う物件が市場に無い。

例えば、職住の境界のない使い方をする時にもっとも問題となるのは住環

境にしかない「生活のにおい」。

この部分まで配慮されている物件が市場には殆どありません。

 

「そんなの気にならないけど?」

 

という人ばかりならいいのですが、そういう人ばかりでないのもまた事実。

生活のかおりとはすなわち、キッチンやバスルームのように、生活を想像

させるアイテムであったり、バルコニーと掃き出し窓の組合せなど日本の

住宅レイアウトの王道をいくようなバーツのことを指します。

 

ファミリーマンションやワンルームマンションをオフィスにしている企業

を訪れた時、洗濯機置場やバスルームを見て何とも言えない違和感を感じ

るのは私だけでしょうか?

ボーダレス化が進む中、これまで以上に汎用性のある使い方が出来る商品

を供給していく必要があります。

その為には、職住の両方の使い方に対応できるような、生活とそれ以外の

活動を分けることが出来る導線や、レイアウトに配慮をしたプランニング

が重要になってくると言えるでしょう。

 



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阪神西宮駅前に建つこの物件では、その点を考慮したプランニングを行な

いました。

その中で、最後まで意見が対立したのはバルコニーの設置についてです。

避難経路の確保と意匠的なバランスから、1フロアに3室ある専有部分の

真ん中の部屋にはバルコニースペースを設けましたが、両サイドの部屋は

あえてバルコニーを設けず、眺望を遮る物を一切排するレイアウトを提案

しました。

しかし、募集を担当する企業の担当者からは、

 

「どこでもいいのでバルコニーを作ってもらえませんか・・・」

 

という意見が。

25㎡〜35㎡の専有面積を持つ物件では、バルコニーの稼働率は非常に

低い。

にも関わらず、入居を検討する段階ではバルコニーの有無は、契約を左右

する非常に大きな要素になるそうです。

そこで考えたのが、エレベーターや階段から部屋に辿り着くまでの廊下を

ドアで区切り、バルコニーを玄関の前に持ってくるという策でした。

いわゆるアルコープの巨大なものです。

通常のマンションにあるアルコープはとても小さいものですが、この物件

では、2m近くある廊下幅を目一杯使い通常のマンションのバルコニーの

規格をはるかに上回る空間を確保することが出来ました。

玄関の前にもうひとつ玄関がある感覚です。

もちろん、プライバシーを守る対策も万全にしました。

専用キー付の扉を設けた為、共用廊下からの進入は出来ません。

また、洗濯物を干す契約者の為に、共用廊下からは内部が見えない構造に

なるよう配慮をしました。

 

ただ、ほとんどの人がバルコニーとは思っていないようで、物件の案内を

する担当者が見学者に、

「え、バルコニー?とありますよここに」

と説明をしている場面をよく目にしました。

実際には、洗濯物を干すという用途ではなく自分の趣味の自転車を保管す

る空間として、あるいはスキー板や釣りの道具を手入れをするスペースと

して活用している利用者が多かったようです。

結局、どのように利用するかを決めるのは作り手ではなく、利用する人達

だと言う事なのでしょう。

私たち作り手の使命はきっと、利用する人が想像力を膨らませることの出

来る空間を創造することなのだと思います。